朝鮮半島の亀趺


                   参照資料:代表的なものをご紹介すれば、
                          関野貞『朝鮮の建築と芸術』(岩波書店、1941年)
                          朝鮮総督府編『朝鮮古蹟図譜』(4・6・10〜13、1916〜1933年。復刊名著出版、1973年)
                          趙東元『韓国金石体系』(円光大学校出版局、1979〜1988年)
                          その他の資料について、平勢郎『亀の碑と正統−−領域国家の正統主張と複数の東アジア冊封体制観−−』(白帝社、2004年)にご紹介したところがあります。



  朝鮮半島では、統一新羅の時代に亀趺づくりが始まりました。
  中国で、すでに亀趺の制度が調い、五品以上にゆるす、という規定ができあがっています。明代に皇帝陵に亀趺碑を建てるようになるまでは、一般に皇帝陵には亀趺碑を建てていませんでした。
  その意味からすると、朝鮮半島で、王陵に亀趺碑を建てるかどうかは、東アジア冊封体制を亀趺碑に反映させるかどうか、という問題として議論できます。
     中国皇帝−−中国一品官−−中国二品官−−中国三品官
              朝鮮国王−−−朝鮮一品官−−朝鮮二品官
  同じころの日本では、薄葬令の下、古墳など地上の目印は造らなくなっていました。石碑は建てなかったということです。日本の石碑は江戸時代に建てられるようになります。   
  新羅では、大宗武烈王の王陵碑が建てられています。
  新羅後期には、唐とは形相の異なる亀趺を造り始めます(獣首−−日本の亀趺を参照)。
  高麗時代には、ひきつづき獣首の亀趺を造り、かつ、高麗王の下、独自の僧階をつくり、高僧の舎利塔や舎利塔のわきに建てた石碑(塔碑と言います)に亀趺を使うことを許しています。高麗は仏教王国で、高僧が政権を支えていました。高麗王には造っていませんから、高麗王朝独自の制度の下で建てたということになります。
  元の征服を受けると、上記のやり方は衰え、亀趺の形相も中国風になり、亀首(日本の亀趺を参照)のものばかりになります。
  朝鮮王朝(李朝)では、引き続き亀首の亀趺を造ります。両班層の墓地を高台につくり、そこから降りてくる神道(日本でいうところの参道)を作り、神道の入り口に亀趺碑を建てるなどの方法があったようです。この神道(参道)に建てる碑を神道碑と言います。
  李朝亀趺の特徴は、建てる人物が朝鮮官位の二品以上に限られていることです。規定があるのではなく、明の規定、つまり三品以上に
ゆるすという規定を朝鮮王朝におきかえて使っていたようです。冊封体制を意識して建てているということです。
  ところが当の中国では、亀趺碑を三品以上に許すか、五品以上に許すかという二つの議論がありました。隋唐以来清朝にいたるまで、一貫して五品以上にゆるすという規定でしたが、元代に神道(参道)碑だけを分けて三品以上に許すという規定ができあがり、明朝の初期の洪武帝のときには、この三品以上が亀趺碑の規定として一般化します。しかし、明朝は唐代を念頭においた復古が盛んで、唐王朝以来の五品以上、という規定に落ち着いていきます。
  明朝では洪武帝のときには三品以上、その一族を滅ぼして北京に 都を遷した永楽帝以後は5品以上に落ち着きます。
  その中国で五品以上に落ち着いた時期に、朝鮮王朝では、二品以上について亀趺碑を建てているということになります。
  つまり朝鮮王朝は、過去の中国王朝を念頭において冊封体制を具現化させていた、という話になるようです。
  明朝が滅びて清朝になると、朝鮮王朝(李朝後期)では、明朝最後の皇帝の崇禎帝にちなんだ紀年を使い始めます。崇禎帝の死後何年になるか、という紀年です(崇禎後何年などの記載)。これも、過去の王朝を念頭において用いるものになります。この崇禎紀元を使うのは墓地の石碑に限られていたようです。
  過去の王朝を念頭において、というのは、朝鮮半島では、ときおり顔をのぞかせていたやり方で、例えば、五代十国時代の王朝の年号でその王朝が亡んだものを刻している例が見られます。
  朝鮮半島の亀趺碑調査は、戦前の関野貞以来の具体的調査を参照して歴史的流れを追うことができますが、朝鮮王朝(李朝)時代のものについて、より詳細な調査が必要で、現在も進められている調査が、今後より多くの知見を与えてくれることと思います。
  中国の場合も同様で、広大な中国の地主層の墓地で、どんな神道(参道)と、どんな神道碑が建てられていたか、今後の調査に、期待したいと思います。
  こうした将来の調査の結果、上記の明代・清代の亀趺碑のあり方の説明が修正される可能性もあります。

     舎利塔

     塔碑

     神道碑